漢字「湯桶読み」
日本の漢字には「音読み」と「訓読み」の二通りがあるます。またその読み方が混ざった場合もあり、そのときには「重箱読み」という言い方があることも知っていると思います。
つまり、ある漢字を読むときに最初を音読み(カタカナで表示)で読み次を訓読み(ひらがなで表示)で読むのが「重箱読み」です。
例としては「台所(ダイどころ)」「団子(ダンご)」「役場(ヤクば)」などなどです。
そして「重箱(ジュウばこ)読み」の反対は「湯桶(ゆトウ)読み」です。
例としては「朝晩(あさバン)」「雨具(あまグ)」「夕刊(ゆうカン)」などなどです。
このように漢語(中国語)と和語(大和言葉)が混合して使われだしたのは15世紀の平安時代ころからといわれています。これが「湯桶文章」でそののち「湯桶言葉」「湯桶文字」になったようです。すなわちこの時代は現在の「音読み+訓読み」「訓読み+音読み」の両方が「湯桶読み」だったのです。
「重箱読み」という言葉がでてくるのはもっとあとの19世紀ころになってからですが、そのときも「湯桶読み」と同じ意味で使われていました。
現在のように「重箱読み(音読み+訓読み)」と「湯桶読み(訓読み+音読み)」を区別したのはもっとあとの昭和10年ころからといわれてます。
なぜ「重箱読み」「湯桶読み」というのかですが、今でこそ「湯桶」は蕎麦やで見かけるくらいになりましたが、昔は「湯桶」は食事のあとに出すお湯をいれておいたもので食事には必需品でした。「重箱」と「湯桶」は今でいえば「弁当箱」と「水筒」のような関係だったのではないかといわれてます。現代人には難解でも当時の昔の人にはよくわかる言葉だったのかもしれません。
「湯桶(ゆトウ)」には食事の後のお湯入れ、のほかに「湯桶(ゆおけ)」という読み方もあります。この場合は①入浴、洗面のためのおけ②茶道で寒期にお客の手を温めるための湯をいれたおけ等の別の意味もあります。
中国から入ってきた漢字とそれまでの大和ことばを融合させた日本人先人の知恵に驚かされます。入試問題に出されるのは仕方のないことでしょうね。息子よ頑張れ!!
(薄化粧(うすゲショウ、湯桶読み)の女房が足早に脇をぬける)
(おれ)「どこ行くんだ?」
(女房 下を向いて)「ちょっとそこまで買い物よ」
(おれ 気重(キおも 重箱読み) 男か?)
写真:湯桶
新聞の漢字の使い分け
新聞はそれなりに漢字の使い分けがあるそうです。
たとえば
「喉(のど)がかわく」の「かわく」は
「乾く」と「渇く」のどちらを使うかというと「渇く」です。
「乾く」・・水分のない状態
「渇く」・・生きていくのに必要な水がないこと
だそうです。それじゃ
「かわいた文体」の「かわいた」は
感情や潤いが必要なのないマイナスイメージに使うときは「渇いた」を、しかしプラスととらえれば「乾いた」もOKとか。
では
「夏のはじめ」の「はじめ」は「初め」「始め」のどっち?
この場合は「夏の初め」。
つまり
・スタートしたばかりの時期、時間には「初め」を使う。
「初期」「当初」「年の初め」など
・動詞が転じた名詞として使う場合は「始め」を使う。
「仕事始め」「事(こと)始め」「年の始めの行事」「年始(ねんし)」など。
ではでは少し難しい問題です。
「子供の名前をかたった詐欺(さぎ)」の「かたった」は
「語(かた)る」と「騙(かた)る」のどちら?
この場合は、相手に被害を与える悪意のある嘘(うそ)の意味だから「騙る」だと思いますが、正解はひらがなで「かたった」。なぜなら「騙る」の漢字は常用漢字にないからだそうです。これはあくまでも新聞の話ですがね。
(女房がそばを通る、何気なくつぶやく)
「喉がかわいたな~。」(ビールが飲みたいの意味)
(女房、すぐに戻って)
「あなた 風邪の兆候かも、これ張ったら(湿布薬)」
(おいおい、真面目なの、それともあてつけ?)
日の丸は何色?
今日は色の話です。
日本の国旗日の丸は白色と何色かご存知ですか?
「赤色(あかいろ)」ですか、いや違います。「紅色(べにいろ)」です。
1999年(平成11年)に制定された「国旗・国家法」によると国旗は
「縦横比(じゅうおうひ)を2対3、縦の長さの5分の3を直径とした円(日章、日輪)を描き、白地に紅色の日章とする。」が正式です。
ちなみに「白」は神聖、純潔を表し、「紅」は博愛、活力を表します。
「紅色(べにいろ)」とは紅花(べにばな)の汁で染めた鮮やかな赤色のことです。
紅花(べにばな)はキク科ベニバナ属の花で、原産はエジプトですが紀元4~5世紀ころに日本に来ました。平安時代まえから衣(ころも)を赤く染める染料として使われてきました。
紅花(べにばな)は毎年6~7月ころに黄色い花が咲きます。花の色素が99%が黄色の色素(しきそ)のためです。この花を収穫して乾燥し、何度も水にさらすことにより黄色の色素が水に溶けだし、残ったたった1%の赤色の色素が染物(そめもの)の原料となりました。先人の知恵はすごい!
あまりに手間ひまがかかるため、紅色の衣(ころも)を着ることができたのは身分の高い人だけだったようです。
神社の巫女が赤色のはかまを身に着けるのも関係があるのかも知れません。
またこの高価な「紅」は女性の口紅ともなりました。貝殻(かいがら)の中に塗布(とふ)された紅を小指ですいて唇にぬるしぐさは男心をくすぐったことでしょう。
源平合戦の壇ノ浦(だんのうら)の戦いで、源氏が掲げた旗は白地に赤の現在の日の丸で、一方の平家が掲げていたのは、赤地に白の日の丸でした。
もし、源平合戦で平家が勝っていれば、日本の国旗は赤地に白の日の丸になっていたかもしれないのです。おもしろいですね。
「赤」だけでも
「紅色(べにいろ)」・・あざやかな赤色
「紅赤(べにあか)」・・わずかに紫みを含んだ鮮やかな赤色
「紅緋(べにひ)」・・冴えた黄みの赤色
「金赤(きんあか)」・・あざやかな黄赤
などの種類ががあります。
ちなみに、日本航空の鶴のマークは「金赤」に近い「猩々緋(しょうじょうひ)」だそうです。(赤みの強い赤紫色(あかむらさきいろ))
赤色を見ただけでもいろいろな赤があります。これは日本の色彩文化の優れていることをあらわしていると私は思います。また色に対する日本人の繊細(せんさい)さとも言えるのかも知れません。
今日はこの辺で。
(女房が何気なくそばを通る)今日の口紅は濃いな?
(女房流し目)ぞくっ!今夜が怖い!
「菖蒲」(しょうぶ)のはなし
6月といえば「菖蒲」の季節ですね。
ところで、あなたは「しょうぶ」「かきつばた」「はなしょうぶ」「あやめ」の区別がつきますか。日本人ならそこらあたりは押さえておきたいものですね。東京オリンピックのときに来た外人さんにも説明できるように。
それぞれを漢字で書くと
「しょうぶ」・・「菖蒲」(5月の節句に飾るもの サトイモ科)
「かきつばた」・・「杜若」「燕子花」(水辺に咲く 紫と白色だけ アヤメ科)
「はなしょうぶ」・・「花菖蒲」(観賞用 多彩な品種あり 水辺近く アヤメ科)
「あやめ」・・「菖蒲」「綾目」「文目」(陸地に咲く 紫色まれに白 アヤメ科)
となります。日本人は古来からこれらの花をひっくるめて「菖蒲」(しょうぶ)と読んでいたような気がします。
ただし、5月の節句に飾る「しょうぶ」はサトイモ科で他の花とはまったく違います。花もがまの穂みたいな花が咲きます。それ以外はアヤメ科です。
他のアヤメ科3種の花の見分け方
① 水辺か湿地に咲いていたら「かきつばた」か「はなしょうぶ」紫色一色なら「かきつばた」の可能性大
② 陸地に咲いていたらほとんど「あやめ」ただし最近は外国系もあるので注意
③ 花びらの根元が黄色なら「はなしょうぶ」、白色なら「かきつばた」、ちなみに「あやめ」は網目(綾目)模様
これでほとんどの区別はつくと思います。ご理解いただけましたか。
その中でも、日本人は昔から「かきつばた」の花を愛でてきました。
藤原業平の「伊勢物語」にも「かきつばた」を読み込んだ
「から衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる たびをしぞ思う」
(唐衣を着なれるように、なれ親しんだ妻が都にいるので、はるかここまでやって来た旅のつらさを身にしみて感じることだ。)の歌があります。
また江戸時代の絵師 尾形光琳の屏風絵「燕子花図」(国宝)は日本人の心を代表する作品でしょう。
それに、どちらも美人で優劣がつけづらいことを「何れ菖蒲か杜若(いずれあやめかかきつばた)」ともいいますよね。
「はなしょうぶ」も話せば長くなるのでまたの機会に。今日はこのへんで。
(??)えっ、うちの女房は「あやめ」と「かきつばた」のどっちかって?
そりゃ「はなしょうぶ」ですよ。
(女房 照れ笑い)
なんたって鼻のでかさで勝負してますから。
(びゅ~ん ゴン(ものが飛んできて当たった様子))
写真は「かきつばた」
蕎麦屋のかんばん
今日は「仮名(かな)」のはなし。
仮名文字の成り立ちなんかを話してたら夜があけてしまうので、今日はその中の「変体仮名」についてちょっと。へんたいと言ってもムチとか蝋燭(ろうそく)は使わないのでご安心を。
ところで、下の写真は蕎麦(そば)通にはつい涎(よだれ)が出てきそうな看板ですよね。
当然、この看板には「そばや」と書いてあると思うのですがどんな字かわかりますか?
どんな漢字だとおもいますか。
実は、これは漢字ではなく「仮名」です。それも「変体仮名」で「生そば」と書かれているのです。
とても「そば」とは読めないでしょう。それは現代の日本人が小学校で「ひらがな」を47字しか習っていないからです。
そもそも「仮名」ができたのが奈良時代のころ、平安時代には「仮名」で「源氏物語絵巻」などの作品も作られてます。このころには「ひらがな」は約300字くらいあったと言われてます。江戸時代の和学者春登上人はその書「万葉字格」で「かな」は973字あったと書いてます。
「仮名」が漢字から生まれたことは誰でも知っていることですが、いま我々が知っている「そ」という「仮名」は漢字の「曽」からできています。しかし以前にはいろいろな漢字からできた「SO(表記できないのでローマ字にしました。)」という「仮名」があり使っていたのです。
明治33年に政府は仮名字体を一字に統一して学校教育を始めました。「いろは47字」です。そしてこの47字以外の使えなくなった「仮名」を「変体仮名」と呼ぶのです。
それでもこの「変体仮名」は看板、商標、作品名などとしてまだ残っています。
話を戻しましょう。この蕎麦やの看板の「そば」の「仮名」は
「そ」は漢字の「楚」からできた「仮名」です。
また「ば」は漢字の「者」からできた「仮名」に濁点を打ったものです。
ご理解いただけましたか?
ところで、きょうは蕎麦でも食いたいな。
(奥に向かって) 「今日は蕎麦にしてくれよ~」
(返事) 「わたしゃあなたの傍(そば)がいい。」(飯ぬき)
????
「うちの宿六」=役立たず亭主
「うちの宿六」とは妻(山の神)がどうしようもない自分の亭主(夫)に対して言う言葉です。きょうはその役立たずの亭主「宿六」のはなし。
なぜ役立たずの亭主を「宿六」というのかというと、二つの説があるようです。
<その1>
「宿の碌でなし」が短くなった。
(「宿」・・古語で自分の家 「碌(ろく)でなし」・・報酬、収入がない)
つまり、家の中で仕事もなにもしないでごろごろしている無収入の亭主。
<その2>
数字の「六」を漢字で表すと「陸(りく)」(ろくと読む)と書きます。
ちなみに「一(壱いち)」「二(弐にい)」「三(弎さん)」「四(肆し)」「五(伍ご)」「六(陸ろく)」・・・・
そしてこの「陸」という漢字はもともとは土地などに凹凸がなく平らでゆがみがないことを意味するところから、完璧・満足の意味がありました。
すなわち、「陸(ろく)でもなし」は満足できない、役立たず、無頼の徒(ぶらいのと=やくざ)となっていったのだそうです。
あなたはどちらを信じますか。どちらにしても妻が夫を罵(ののし)る場合に使うことばに変わりはないようです。
しかし、しかし、男と女の世界はそんなに単純なものではありません。うちの宿六と罵りながらもかいがいしく亭主につくす妻がいることも、これまた世の中の妙(みょう)であります。
今日はこれくらいにして酒でも飲もうかな。
(奥に向かって)お~い酒くれっ。
(返事なし。)
・・・・・???
同訓異字語(どうくんいじご)
日本語には読み方が同じでも違う意味を持つ漢字が多くあります。外国の日本語を学ぶ人にとってはもっとも難解な部分のひとつかも知れません。
たとえば「はかる」と読む漢字は
「計る」「測る」「量る」「図る」「謀る」「諮る」などがあります。
それぞれの意味は
①「計る」・・数量や時間を調べ数えること。
②「測る」・・高さ、長さ、広さ、深さなどを調べること。
③「量る」・・体積や重さなどを調べること。
④「図る」・・いろいろなことを試みること。計画すること。「企図(キト)」
⑤「謀る」・・策略をめぐらすこと。だますこと。「陰謀(インボウ)」
⑥「諮る」・・ある問題について専門家に意見を聞くこと。「諮問(シモン)委員会」
これらは、①~③は客観的事実、④~⑥は人間の意志の結果、というふうに2種類に分けることもできます。つまり古来、漢字が渡来する前の字というものがなかった時代の日本の大和言葉(やまとことば)には「はかる」の二つの意味が存在していたと私は考えます。
それが、漢字が渡来したことによって、以前からあった大和言葉の「はかる」の意味を広げる結果となったのかもしれません。漢字と大和言葉の融合(ゆうごう)とかんがえてもいいのではないでしょうか。
この中では重複して用いるものもあります。
「計る」+「測る」 →「計測」(いろいろな機械を使ってものの値をはかること。)
「測る」+「量る」 →「測量」(地表の一部分の位置、形、面積などを精密に測定する作業)
また、人の心を「はかる」ときにはどの漢字をつかうでしょうか?
よく「相手の考えを推(お)し量る。」というような使い方をします。これを漢字熟語で表せば今国会でよく聞く「忖度(そんたく)」ということになるのでしょう。